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2016年01月24日(日)|13:17|1枚のグラフから

安倍首相、成長率目標はGDPをやめてGNIにすれば!

安倍政権は9月下旬に至りアベノミクス第二ステージを宣言、その象徴的な目標とされたのが「GDP(国内総生産)600兆円」だった。

しかし現政権が政策目標として到達すべき経済規模(並びにそれから逆算される成長率)について高らかに掲げたのはこれが初めてではない。

思い出してほしい。一昨年の2013年半ば、まだアベノミクスがスタートして半年で、安倍首相は「10年後に1人あたりGNI(国民総所得)を150万円増やす」との目標を掲げたはず。ところがその後、政府から「GNI」という言葉は一向に聞こえてこない。

むろん、新聞、テレビなどでも報じない。その後2年半がたつが、「1人あたりGNI」の行方が検証されることはない。「あの目標はいったいどこへ行った?」。

そこで政府に代わり、いつの間にか迷子状態になってしまった「1人あたりGNI」の行方を尋ねてみることにする。
昨年7〜9月期まではGDP>GNIの関係にあったのが、10〜12月期には逆転、それ以降はGNIの伸びが著しい。理由は以下の恒等式をご覧いただければ分かる。
GNI=GDP+所得収支+交易利得
所得収支とはわが国企業が海外に展開する子会社や、投資した株式、債券等から得られた配当、利子等から海外部門がわが国から得る配当・利子を差し引いた収支尻。リーマンショック以降、わが国企業は急激な円高に対処するために、生産拠点の海外移転を積極展開、今日では純輸出(輸出超過額)を上回る額の黒字を得ている。

一方交易利得とは、輸出入により海外に持ち出された所得と海外から得た所得の差。輸出入価格の変動要因が大きい。特に昨年半ば以降の原油価格の低下に伴い、交易利得はそのマイナス幅が急速に縮小(好転)してきた。

この結果、アベノミクスがスタートする直前の2012年10〜12月期から、2015年7〜9月期までの伸び率は、GDPが2.4%であるのに対して、GNIは4.1%だ。

国全体にとっての豊かさを測るには「国内でどれだけ生産したか(GDP)」よりは「国民全体でどれだけの所得を得たか(GNI)」の方が適切だ。生活実感から言ってもGDPよりGNIの方が合う。にもかかわらず現安倍政権はなぜ、いったんは政策目標として掲げた「GNI」という政策目標をお蔵入りさせてしまったのか?

そもそも2013年半ば、安倍首相が「10年後に一人当たりGNIを150万円引き上げる」と表明したのはなぜか?おそらく「GDPよりもGNIの伸びが大きいはず」「人口が減少している限りグロスの数値よりも一人当たりの方が相対的に高く算出される」という思惑が働いたと考えるのが自然だ。

グラフを見てほしい。首相が1人あたりGNIを持ち出した2013年半ばまでは、GDPの伸びよりもGNIの伸びの方が大きい。海外に積極的に進出した企業の生産拠点・海外子会社からの配当収入等が膨らんだことが主因だ。
GDP凌ぐ成長示すGNI
(クリックすれば拡大します)
しかし、その後2014年第三四半期に至るまで、GDPに比べGNIは大きく落ち込んでしまった。この間に原油価格が再び上昇したことで、輸入価格が輸出価格を大きく上回った結果交易条件が悪化、所得の海外流出分が膨らんだためだ。所得が海外に流出すれば、国内部門が手にする所得(GNI)が減少するのは当たり前。

この時期に至り、「1人あたりGNIの増加額を政策目標とする」ことを歌い上げた安倍政権は「コリァ困った」となった。かくしてGNIはお蔵入りになったのだ。

しかしその後、再び事態は逆転。2014年第4四半期以降は、再びGNIの伸びがGDPより大きくなる。2014年10月末の抜き打ち的な日銀の追加緩和実施により、一段と円安が進行したのが効いた。円安だと、海外子会社などからのドル建て配当等が変わらなくても円建てでの所得は増える。つまり、所得収支の黒字額が膨れ上がった。

2つ目には、2015年に入ってからは原油価格等が下落したことで交易条件は一気に好転。海外への所得流出額は減った。
かくして安倍政権誕生来今日までのGDPの伸びは2.4%に対し、GNIは4.1%となった。

さあ、安倍首相!お蔵入り状態の「1人あたりGNI」をもう一度、日の当たる場所に持ち出してはどうか。「国民の生活実感に近い1人あたりGNIをも政策目標の参考値とみなす」と表明するいいタイミングではないか?さらには、人口減少に伴い、「1人当たり」のほうが伸び率は高く出るのも政策効果をアピールするには良い。

製造業の海外進出、というよりは、国内での投資の縮小はまだ続く。ということは企業の海外部門での稼ぎは国内部門に比べ増える。

それでなくても、今のアベノミクスは機関投資家、金融機関に国債を買うことができない立場に追い込むことで、海外資産への投資を進めているのだ。これはGIPF等各種年金ファンドについても同様。

であれば、なおさらのこと、海外投資から得られる収益分配金、利子、配当は膨らむ一方だ。つまり、つまり第一次所得収支を通じたインカム(受け入れ収益)は増え、GDPとGNIとの差はさらに拡大する。

それにしても何故「1人当たりGNIって指標」をおろしてしまったのか。前記以外の理由があるのなら教えてほしい。

*この記事は「近代セールス2016年1月5日号」に掲載した記事を加筆、修正したものです。
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角川総一
金融教育、金融評論家。
(株)金融データシステム代表取締役。1949年大阪生まれ。
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